【背景と目的】野間馬は愛媛県今治市の指定文化財に指定されている日本在来馬で、現在、約50頭しか飼育されておらず、系統維持は容易でない状況にある。本研究は野間馬の系統維持を目的とし、疾病解析を行った。
【材料と方法】2020~2024年9月の間に、一飼育機関で死亡/安楽死した野間馬、雄10、雌6頭計16頭を病理学的に検索した。細菌感染を疑う症例には、微生物培養と分子生物学的手法にて同定を行った。
【結果】調査期間内の死亡個体は1歳未満の当歳群(9頭)と18~30歳の高齢群(6頭)が多かった。(1)当歳群(No.1~9):調査期間内に出生した14頭中9頭が死亡、その内8頭は8日以内に死亡した。内訳は、No.1~3の3頭が日和見菌による敗血症、No.4と5が心血管発生異常の他、早産による衰弱死(No.6)、死産または出生時死(No.7)、誤嚥・肺水腫(No8)であった。7か月齢のNo.9は細菌性化膿性肺炎・肺水腫で死亡した。(2)壮年個体(No.10、4歳):小腸捻転および胃拡張で死亡、不正咬合を認めた。(3)老齢群(No.11~16):高度削痩、細菌性気管支肺炎(No.11)、神経内分泌細胞癌の全身転移(No.12)、マラスムス(No.13)、寛骨粉砕骨折と周囲軟部組織断裂による出血性ショック(No.14)、高度削痩・悪液質・肺水腫(No.15)、高度削痩・脱水・左腸骨粉砕骨折(No.16)であった。No.11とNo.15に甲状腺腫、No.16に下垂体腺腫と褐色細胞腫を認め、3頭(No.10、13、15)に不正咬合を認めた。
【考察】仔馬は生後約7日齢までに細菌性敗血症による死亡が多いことが知られており、野間馬の当歳群でも同様の事例を認めた。新生仔馬の敗血症には、仔馬のみならず母馬の免疫状態も関与しており、周産期における母馬の健康管理および飼養環境管理のより一層の向上が必要と考えた。また、新生仔馬2頭に心血管発生異常、老齢個体3頭に3種類の内分泌腫瘍および過形成を認めたことから、今後、これらの疾病に注視する必要がある。