人工抗体として活用できる可能性のある、標的結合scaffoldタンパク質の開発を目的とし、免疫グロブリンと相同性の高い立体構造を持つSD1ドメインの安定性解析を行った。異種発現させたSD1の可溶性画分を精製し、熱変性温度をCDスペクトル測定によって決定したところ、77.8℃と高い安定性を示すことがわかった。
SD1をM13ファージコートタンパク質PIIIに融合した、表層ディスプレイ系を構築した。SD1とラクダ抗体可変領域(VHH)を構造比較して、抗原結合部位に相当するループ構造を決め、ランダム変異を導入した。変異SD1を提示したファージを用いて、TNFαに特異的に結合する変異SD1をスクリーニングした。バイオパニングの過程でファージの濃縮が見られた。選抜された変異SD1 20クローンを選び、変異箇所のアミノ酸配列を解析したが、特定の変異配列を見出すことはできなかった。この変異ライブラリーを、他の標的タンパク質(BSA,カゼイン)に変えても同様の現象が起こることから、非特異的な吸着をしていることが示唆された。この結果は提示SD1が変性したために非特異結合が形成されたためと考えられる。
SD1の可溶性を向上させるため、SD1の疎水コアの強化、表面空孔を塞ぐ、表面のトリプトファン除去をデザインした15種類の変異体を構築した。それぞれを大腸菌で発現し可溶性を比較したが、明確な改善は見られていない。さらなる可溶性改良のため、新しい変異SD1(複数の変異体の組み合わせ、ランダム変異導入)を構築した。