オーキシンによる正常な植物の分化・成長の制御にとって,極性輸送によるオーキシンの濃度勾配の形成は重要である。このオーキシンの極性輸送は,オーキシン取り込みタンパクであるAUX1,オーキシン排出タンパクであるPINやABCBにより制御されており,これらが協調してオーキシンの濃度勾配を形成すると考えられてきた。一方,最近明らかになったオーキシン生合成経路の知見から,トリプトファンからインドール3-ピルビン酸を経てオーキシンを生合成する経路が,オーキシンの濃度勾配の形成に重要な役割を果たすと考えられた。すなわち,オーキシンの濃度勾配の形成には,オーキシン極性輸送だけではなく,局所的なオーキシン生合成も大きく関与することが示唆された。
これまでオーキシン濃度分布は,オーキシン応答性GFPレポーター遺伝子の発現応答に基づいて可視化されてきた。しかしながら,GFPレポーター系によるオーキシンの可視化は,輸送や生合成・代謝などを合わせた内生オーキシン量の動態であり,輸送と合成に由来するオーキシンをそれぞれ分離して観察することは不可能であった。今回報告する蛍光オーキシンアナログは,オーキシン受容体には認識されないが,オーキシン輸送担体には基質として輸送される。つまり,この蛍光オーキシンアナログはオーキシン輸送担体にのみ認識されるオーキシンアナログであり,オーキシン輸送によるオーキシン分布を選択的に可視化することができると考えられる。
(1岡山理大・院・生物化学, 2奈良先端大・バイオサイエンス,3京都大・化学研究所)