ゴビ砂漠の上部白亜系バインシレ層は,恐竜類を含む脊椎動物化石が多産することでよく知られている.しかしながら,当時の動物相の種多様性に関する知見は,化石の保存性の低さから,恐竜類やカメ類を主体としてきた.とくに淡水生脊椎動物相(カメ類を除く)に関する知見は極めて限られており,ヒボダス類が報告されているほかは,単に硬骨魚類と同定された化石の記録しか知られていない.こうした背景のもと,2022年度にモンゴル科学アカデミー古生物学研究所と岡山理科大学の共同調査隊によるバインシレ層を対象とした発掘調査において,保存の良い条鰭類の化石(以後,BS標本)が多数発見された.これらの標本には,前頭骨,頭頂骨,皮翼耳骨,主鰓蓋骨,ガノイン鱗および1個体に帰属するまとまった頭部骨格が確認された.頭頂骨が単一であること,ガノイン鱗に突起がなく,前の鱗と重なる部分が長いことから,これらの標本はシナミア科に属するものと考えられる.シナミア科はIkechaoamia属,Sinamia属,Siamamia属,Khoratamia属の4属が知られている.Ikechaoamia属は中国から2種が,Sinamia属は中国と日本から8種が記載されているほか,朝鮮半島からも本属の一種とされる化石が報告されている.Siamamia属とKhoratamia属はタイからそれぞれ1種が知られている.本研究ではBS標本をこれら既知の種と詳細に比較検討する.