沖縄島南部に位置する更新世末期の港川人遺跡からは、人類を含む多様な陸生脊椎動物化石が豊富に産出し ており、同島における更新世末期の動物相の種構成や分布を明らかにする上で重要な資料である。しかしなが ら、これらの分類・同定は長らく予察的段階にとどまっていた。近年、リュウキュウイノシシやカメ類、ヘビ 類については詳細な分類学的再検討がなされ、当時の種構成や絶滅の時期などに関する新たな知見が得られて いるものの、カエル類化石については十分な比較研究が行われていない。そこで本研究では、カエル類腸骨化 石140点を対象に、沖縄島およびその周辺域に生息する現生種との比較により、分類学的帰属を再評価し当時 のカエル相の把握を試みた。結果、背方稜や背方結節、腹側寛骨突起の特徴などから、化石は沖縄島在来5種 (Babina holsti、Odorrana narina、Rana ulma、Fejervarya kawamurai、Zhangixalus viridis)のいずれかに同 定された。更に、近年の本遺跡及び近隣地域産のカエル類化石の記録を統合すると、後期更新世の沖縄島南部 からは、同島在来10種のうち8種が確認されたことになる。また、F. kawamuraiの産出は、同種が更新世中 に自然分散により沖縄島に到達したという仮説を支持するものであり、B. holstiやO. narinaなどの記録は、 先行研究で指摘されているように、更新世末期の港川周辺地域が、多様な流水環境を伴う密生かつ湿潤な森林 環境であったことを示唆している。