本研究では,社会的レリバンスを保障する小学校古代史学習の在り方について,重要な歴史的事象に関する小学生のアンケート結果,小学校教員,考古学研究者のインタビューの分析,及びパブリックアーケオロジ―成果をもとに明らかにしてきた。本研究の成果は以下の3点である。
第1は子どもの歴史の見方・考え方の背後には「現在の日本は法に守られ,豊かな生活と経済発展,平和を実現し,国際協調の輪の中にいる国家であるとみなす肯定的自国観」というナラティブ・テンプレートがあることを明らかにしたことである。子どもが古代史を重要な歴史的事象とみなさない背後には,このナラティブ・テンプレートが関係しているものと思われる。
第2は古代史の意義を,小学校教員(A氏),考古学研究者(B氏,C氏)のインタビューから再定義したことである。A氏は「現代社会を相対化してみること」に,B氏は「現代社会の地下には過去から連続する水脈が流れており,それを掘り起こし立ち戻ること」,C氏は「人間の原点に戻ることで現在の複雑な社会情勢の解決の糸口を見いだせる」に見出している。持続可能な社会の形成者の育成には,このようなの知見と,社会,子どもをつなげるレリバンスを構築する必要がある。
第3はパブリックアーケオロジーの知見を活かし,学問的レリバンス,社会的レリバンス,個人的レリバンスを保障する古代史学習の在り方を提案したことである。パブリックアーケオロジーの「教育的アプローチ」「広報的アプローチ」「多義的アプローチ」「批判的アプローチ」は古代史学習のレリバンスを保障する上でも重要なアプローチをなり得ることを示した。
今後の課題は,本研究で示した古代史学習の構想をもとに単元計画を作成し,その実現可能性,及び成果についてあきらかにしていくことである。