哺乳類の脊髄灰白質は、細胞形態に基づいて10層に区分される。脊髄背角において無髄の侵害受容線維は浅層に、有髄の固有感覚線維は深層に投射しており、灰白質の層構造は各層の担う機能と密接に関係する。ハ虫類の脊髄は哺乳類に似た層構造をもつが、動物種ごとの特徴や各層に位置するニューロンの機能に関する報告は少ない。そこで本研究では、カメ脊髄灰白質の層区分と感覚神経線維の分布を明らかにする目的で、アオウミガメ脊髄の組織解析を行った。アオウミガメ(Chelonia mydas)の脊髄は10%中性緩衝ホルマリンで固定後、頸膨大・胸髄・腰膨大のパラフィン切片を作製した。神経形態の観察には、NisslおよびKlüver-Barrer染色を用いた。また一次感覚神経線維のマーカー(Substance P、CGRPなど)について、その発現分布を免疫組織化学で検討した。アオウミガメ脊髄の灰白質は、他種カメの報告と同様に7つの層に区分された。頸膨大・腰膨大では運動ニューロンが腹角のIX層に多く存在する一方、胸髄ではごく少数のみが存在した。また頸膨大・腰膨大のV・VI層は、大型細胞を含む外側部と、小型細胞を含む内側部に区分できた。無髄の侵害受容一次感覚線維のマーカーSubstance PおよびCGRPは、背根から背角I~III層に入る神経線維を主に標識した。またSubstance P陽性線維は、脊髄中間帯や腹角にも疎に分布していた。これらの結果を踏まえて哺乳類脊髄の知見と比較・考察を行った。