運動ニューロンはコリン作動性神経の投射を細胞体に受ける.この神経入力は運動ニューロンの発火頻度を調節し,脊髄では歩行運動の発達に伴って神経伝達も成熟する.口腔顔面筋は,出生後に吸啜から咀嚼と運動特性が変化するが,各筋を支配する運動ニューロン群へのコリン作動性神経の分布や機能は不明である.運動ニューロンに投射するコリン作動性神経はパターン運動の調節に関与する可能性が報告されており,本研究では口腔顔面筋の運動が変化する生後期に注目し,運動ニューロンにおけるコリン作動性神経の分布と機能分子発現を解析した.胎齢17日~生後26日齢(E17~P26)のマウス脳幹において,コリン作動性神経マーカーVAChTにより神経終末の分布を観察した.運動ニューロンに接するVAChT標識終末は,E17で少数が口腔顔面筋運動核の一部の亜核に存在し,その後,全ての亜核で終末数と終末径が経時的に増加した.舌骨上筋を支配する亜核では,運動ニューロンに接する終末数が有意に多い傾向を示した.シナプス後部の機能分子である電位依存性カリウムチャネルKv2.1およびムスカリンM2受容体は,生後早期に運動ニューロン細胞膜で発現し,日齢が進むと神経終末の後部に集積した.以上から,口腔顔面筋運動核に投射するコリン作動性神経は,その神経伝達が吸啜期で経時的に発達し,咀嚼期への移行前に完成することが明らかになった.