ヒト以外の霊長類社会は生存のために必要な資源を独力で環境から獲得できる個体の集合である。それに対し,ヒト社会は分業や協業によって共同して環境から資源を獲得し,それを交換と分配のネットワークを通じて成員に配分する実践共同体である。そして,ヒト以外の霊長類社会における成長,成熟とは資源獲得において他者への依存を解消してゆくプロセスであるのに対し,ヒト社会においては逆に他者への依存関係が貧弱な状態から,実践共同体への参加を通じて他者との依存関係をより深めてゆくプロセスである。したがって,ヒト社会における養育とは“能力”ではなく“関係”を肩代わりしてやることである。本シンポジウムで提供された3つの話題における「逆境」,すなわち障がいや早産,過疎といった状況は,何らかの形で社会参加の道が阻まれている状態であると理解できた。そうした「逆境」に対する支援を行う際には,能力獲得の手助けや補填ではなく,いかにして社会参加への道を開くかという観点が重要である。