本研究は熟議の場を保障する,メディア教育の在り方について明らかにするものである。
平成29年度版学習指導要領前文では学校教育の目的として,一人一人の児童が「持続可能な社会の創り手」となることを掲げている。そのための学習の1つとして,熟議を方法原理とした社会論争問題学習が実践されるようになった。しかし,現在のメディア環境はそもそも,異なる価値観をもつ者同士が同じ熟議のテーブルにつくこと自体を困難にしているのではないか,ということが本研究の問題意識である。熟議においては,意見が異なる他者同士が議論を行うことで,人々の意識が変容し,より良い結論に達することが求められる。そのためには,ある程度の情報が共有されていること,異質な他者への寛容性が必要となる。しかし,SNS等の情報のパーソナライゼーションが進んだ現在においては,これらを保障することが困難になりつつある。
本研究では「熟議」のための「社会的寛容」を「関係性の維持」の観点からとらえ,「平和的共存」「敬意」・「尊重」「互恵性」や「相互性」という関係の維持にマスメディアが一定の役割を果たすことを示した。また不特定多数のユーザーを対象とするからこその新聞の特徴についても,大学での探究活動ⅡBの取組を通して明らかにした。
「熟議」に焦点を当て,社会的分断・寛容性の観点からメディアを評価する授業を開発することが今後の課題である。